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元国税職員が語る、知られざる税務調査の実態と、巧妙化するピンク産業の脱税手口

2014年12月19日

 国税局の税務調査はどこに入るか? 
コンピュータで調査対象者を選び出す手法が主流である――こういった話がまことしやかに語られている。
しかし、これは専門家によると俗説だという。

「実際の調査現場では、コンピュータを使った選定はほとんど行っていないのです。
補助的に使っている程度で、税務調査は経験と感性によって展開していくもの。
経験に裏打ちされた調査の感性こそが重要で、マルサ(国税局査察部)では
一人前の査察官が育つには最低5年が必要だといわれています」と語るのは、
『国税局直轄 トクチョウの事件簿』(ダイヤモンド社)の著書もある
元国税職員で税理士の上田二郎氏。

 本書では、税務署の特別調査部門(トクチョウ)の活動が明らかにされている。
トクチョウとは国税局の中でも調査の花形部署。
強制調査のマルサや任意調査の精鋭である「リョウチョウ(資料調査課)」を経験した統括官が指揮し、
調査能力に長けた優秀な調査官を集め、調査活動を行う。

 個人の税金を取り扱う「トクチョウ」では、弁護士、司法書士などの士業や医師、歯科医師などの高額所得者、また大口の申告漏れが見つかりそうな繁華街の飲食店などを対象に、これらを継続的に管理し、調査に入るタイミングをうかがう。

「士業の調査では、帳簿の検査はもとより、証拠書類の検証や銀行調査、
取引先やクライアントへの反面調査(取引相手に内容の裏付けに行く調査)が必要となることが多く、
一般調査では荷が重い調査になります。
相手先も多忙で、日程調整に手間取ることが多く、調査計画が思い通りにはかどらないこともよくあります。
そこでトクチョウが請け負うのですが、そのような大きい調査案件を抱えているため、
合間を縫うように自分たちのペースで調査ができるピンク産業(主に性風俗業)など
も常にリサーチしています。このために国税の中では『ピンク担当』といわれることもあります」(上田氏)

●ピンク産業の税務調査
 特定の繁華街を把握することが中心になるために、東京都内に点在する有名な繁華街を所轄する税務署にトクチョウは配置される。
著書では美術商、弁護士など5つの事例が紹介されているが、今回は上田氏にピンク産業への調査の一端について語ってもらった。

「この業界は経営者の回転が早いのです。
1年たったら、ほとんどの店の経営者が入れ替わっています。
このため、年単位で課税する所得税の捕捉が追い付きません。
飲食店業、中でもピンク産業は脱税が容易だと考え、『ならば俺たちも』と安易な脱税に手を出して、
税務調査で痛い目に遭う人がいます。
税務署はピンク産業もしっかりと把握していることを知り、
脱税はあまりにもリスクが高すぎるということを知ってもらいたいのです」(同)

 確かにピンク産業、性風俗業界の場合、店の名前が数カ月で変わっていくことはよくある。(内装そのままに)居抜きで買い取って経営者が別になることもあるが、店の名前は変わっても、経営者は変わっていないことも多い。

「ピンク産業の税務調査は無予告調査が基本です。ターゲットに接触する前に十分な時間をかけて、ある程度の証拠を固めて踏み込んでいきます。店舗型の場合は事前調査の基本は張り込みですが、店の名前は頻繁に変わるが、お店に出入りする女性は変わっていない、ということが多く、その場合は女性から調査に入っていきます。一番のポイントは、最も儲けている影のオーナーにたどり着けるかどうか。影のオーナーを取り逃さないように、証拠を固めていく必要があるわけです」(同)

●素人が無店舗型性風俗店を開業する理由
 厄介なのは無店舗型のデリバリーヘルスやホテトルだという。
マンションの一室を借りた無店舗のために、営業の実態を把握しにくい。
このために、経営者側もみかじめ料対策や税務署対策がしやすい。そう考えて素人さえも経営に乗り出そうとすることが多い。

「こうした場合、調査官はラブホテルを張り込みます。すると女性1人で出てくる客がいる。ホテルから1人で出てきた女性は、たいていデリヘル嬢やホテトル嬢で、近くのマンションにある待機場所に戻っていきます。待機場所を発見すれば、そこからの出入りを把握し、そのマンションの部屋の所有者や借主は誰かと見ていくと、影のオーナーが見えてくるのです。しかし、相手も手口を巧妙にしていき、こちらも精鋭部隊で臨み、常にいたちごっこです」(同)

 一昔前ならば、電話ボックスに貼られていたピンクビラの電話番号から所有者を割り出すこともあったが、最近ではインターネットの広告なども元にして経営者を調査するという。

「実際に潜入調査もして、売り上げを把握します。ただ、現在進行中の営業は翌年度の申告になるため、トクチョウが税務調査に入れるのは翌年の3月15日以降になる。相手が申告していないか、申告していたとしても、こちら側の見積もりと比較して申告額が低いのではないかということになって、初めて調査に入ることになります」(同)

 税務調査の末に、修正申告とさらに重加算税(35%)が課税されることもある。

 ちなみに、2014年の確定申告は2月17日(月)から始まる。くれぐれも注意されたい。
(文=松井克明/CFP)